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小説:白鍵と黒鍵 第十話



授業が終わった後、私は適当に学校に居残ってクスとお喋りをしていた。
今日のレッスンの時間は6時からと少し遅めになっていたので、この前のように急いで家に帰る必要もない。・・・いや、このまえ早く家に帰ったからこそ、あのスコアを拾えたのだと思えば、あながち家に早く帰ることも間違いではないのだろうけれど。
しかし私にとって、やはりあの家は居心地の良いものでもなかった。
幼少の頃から大粒の涙を流してピアノの前に座らされたことが私にとっては苦痛であったし、あの家にピアノがあるせいで私は辛い思いをしてきて今に至るのだ。
私のあの家と母親とピアノに対する恨みは、深く、そしてどす黒い。

クスはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、
「いやぁ、なにか楽器を弾けるのは良いことだよ!うちの学校にはあんまり楽器弾ける子とかいないじゃない。やっぱり田舎だから、楽器弾くより田植えのほうが上手い人がいっぱいだよ!」
と言って、ケタケタ笑っていた。


校舎3階の木造教室から見える外のグランドでは、野球部やらサッカー部やら陸上部の連中が思い思いに汗を流し、大きな声を張り上げてそれぞれの練習に取り組んでいる。
小高い山の上に出来た校舎からは、学校の生徒の家々、そして樹里先生のピアノ教室がある駅前商店街と住宅街が小さく眺められた。小さな田舎の駅にちょうど電車が入ってくる。
燃えるような大きな秋の夕日が、遠くの山々のてっぺんに差し掛かろうとしていた。
夕暮れが、山々の間にぽっかりと浮き出た私たちの街を、朱色に染めていた。


私はクスと他愛無い話を繰り広げながら、その光景を眺めている。

「なんだか・・・いいね、こういうのって。」
こういう夕日を眺めていると心が落ち着く。
何もかもが美しく見えて、私は世界の一部なんだということを認識させられる。

「あらら、双葉ちゃん、ロマンチストですか。」
クスが私の横顔を見て、からかうようにニンマリと笑った。
「別にそんなつもりで言ったんじゃないもんねー。」
とりあえず私もクスのからかいに乗ってみる。
私の頬が熱く燃え滾っているのは、クスのからかいのせいだろうか。
それとも夕日が照らしているのだろうか。

「双葉ちゃんからそういう言葉が出るのって珍しいね。」
「え?」
「だって双葉ちゃんって、なんだかクールなイメージだからさ。」
あれ。私ってそんなイメージなんだろうか。
「いや、別にそういうわけじゃ・・・」
「そうなの?あんまり『夕日が綺麗だね』とか言うタイプには見えない・・くくっ・・」
クスは笑いを堪えているのか、お腹を押さえ始めた。
「・・私だってたまには郷愁的になるけどね。」
私はそんなクスの態度に若干、腑に落ちない何かを感じながら、また夕日に染まる校庭を見下ろした。


秋の陽がゆっくりと沈んでゆく。
山肌の樹々は朱や黄に染まる。
正面のクスの顔がオレンジ色に染まっている。
グランドの生徒たちの黒い影が長く長く伸びる・・・。


なにもかもが熱く輝いていた。





第十一話へ。

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